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【研修記録】なぜP&Sのトレーニングは厳しいのか?
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目次
自信喪失を繰り返させた P&S の研修
多少なりとも勇気のいる見出しから始まる本記事ですが、P&S の研修の実態についてトレーナー目線で発信したいと思います。
【研修記録】自信喪失を繰り返し、気付けば超成長できていた7ヶ月研修
上記記事には、弊社の中野さんが P&S の研修の流れについて、ご自身の経験や思いを併せて紹介されています。研修を受ける側の視点については、是非こちらの記事をご参照ください。ここからは、中野さんが研修を通して感じられたような辛さと超成長できたという実感が、どのような研修のもとで得られたのかについて、設計思想やトレーナーの対応に焦点を当てて紹介していきます。
AWS トレーナー ≠ AWS の知識を教える人
現在、トレーニンググループには以下のクライテリアを受賞したメンバーが在籍しています。
- Japan AWS Ambassadors
- Japan AWS Top Engineers
- Japan AWS Jr. Champions
- Japan All AWS Certifications Engineers
AWS の領域の実績として一定の評価を受けており、AWS トレーナーを担える条件であるかのようにも見えるかもしれません。しかし我々は単に AWS のスキルを有しているエンジニアをトレーナーとみなしません。ビジネスにおける研修は成人学習です。成人学習の理論から外れることなく、質の高いトレーニングが提供できるように、我々は教育工学の基本的用語を共通言語としてコミュニケーションが取れるチームとなることを目指しています。
研修は学習者の現状と学習目標のギャップを埋めるためのもの
私たちは、インストラクショナルデザイン(ID)の理念に基づいて研修を設計しています。特に重視しているのは、「学習目標の明確化」です。研修は、学習者の現状と学習目標とのギャップを埋めることを目的としています。そのため、ギャップが大きいほどコンテンツの難易度も上がりますが、それこそが設計者の腕の見せ所でもあります。
模擬案件が始まるまでの数日間で、PythonやGit、Terraform等に関するまぁまぁな量の課題(ハンズオン含む)をこなすのですが、知識0かつ、黒い画面と文字が苦手な私にとっては、本番(模擬案件)が始まる前から湿疹が出るくらいキツかったです。
冒頭の記事で言及されているように、未経験の状態から限られた時間で課題をクリアすることができたのは、小さくないギャップを埋めることができた、攻めているが適切な難易度のコンテンツだったのではないかと考えられます。
※ 湿疹が出るくらい追い込まれたらトレーナーに相談してください!心身に異常が見られるのは研修上は好ましくありません。当時の具体的な状況は中野さんにヒアリングし、ID の思想に基づいて研修を改善していきます。
P&S の研修の難易度が高いのは、求める質と自由度によるもの
笑顔だった先輩の顔が(きつ過ぎて)どんどん暗くなっていく「AWSアドバンスト研修」が最後に始まります。
中野さんの記事に記載があるように、周りの雰囲気含め研修の難易度が高いと感じられた原因は、研修が求める質と自由度が高いことにあると考えられます。模擬案件では単に構築経験を得ることを目的としません。質の高い成果物と、質の高いプロジェクト進行を要求します。我々はここで言う「質」を、依頼者の要望とのずれで評価します。どれだけ高度な技術を使おうが、最新の AWS のアップデートを反映しようが、顧客の要望から考えられた構成・設定でなければ意味をなさないということです。
模擬案件のキックオフ時には、トレーナー(依頼者)は最低限の要件と期日を伝えるのみです。スケジューリングを含むプロジェクト進行はトレーニーが責任を持って実行します。模擬案件なので、想定される構成はマニュアルとして存在しますが、それも複数存在しますし、トレーニーが提案した内容が理にかなっていればマニュアルに載っていない構成もよしとしています。トレーニーと依頼者の間で折衝し、そのプロジェクトにおける最適解を作り出さなければいけないという設計が、取るべきアクションの選択肢の多さ、つまり自由度を高くしており、高難易度に繋がっている要因です。
トレーナーは進んで嫌われ役になろう
P&S の研修のもっとも特徴的なコンテンツが、最終フェーズに実施する模擬案件です。模擬案件では月次で以下の内容を実施します。
- リージョン障害に対応できる業務システムのインフラ設計・構築
- IoT デバイスのデータをクエリする API 基盤のインフラ提案・設計・構築及びバックエンド開発
- CM 放映におけるスパイク対策及びコンテンツ運用負荷軽減を実現するための構成提案・プリセールス
模擬案件の期間中、メンバーに対してトレーナーがひとりアサインされます。トレーナーはトレーニーのプロジェクト進行を近くで見ている立場にありますが、トレーナーとして研修の答えになるようなことは基本的に言いません。
例えば、プロジェクトキックオフ後に15営業日でスケジューリングを依頼した際に、トレーニーが実現可能性が高くないスケジュールを立てたとしても、こちらから具体的なスケジュール変更を依頼することはありません。「なぜそのようなスケジュールにしたのか?」から会話し、無理がある場合はそれを自らが修正するアクションを取るまで対話をします。なので「もっと早く教えてよ」「回りくどいな」「また同じこと言ってるな」などと思われることもあるかもしれません。
トレーナーは、トレーニーが卒業後実務で活躍できるように、今の研修を充実させることを第一に考えています。そのため、研修だからこれくらいで良いか、といった感覚は皆無であり、全てのフィードバックは現場レベルまたはそれ以上の想定で実施しています。その場では嫌われ者になっても良いので、厳しいことであっても研修の場で伝えて、改善アクションを研修の中で取っていただくことがトレーニーのためになると信じています。
まとめ
P&S の研修は決して楽ではありません。ときには自信を喪失しそうになるほどの厳しさがありますが、それでも多くのトレーニーが「成長できた」と実感しています。なぜでしょうか?
その理由は、大きく3つあります。
- 難易度を高めに設定したコンテンツ設計
- トレーニーの能動性を引き出すためのトレーナー対応
- メンバー同士で支え合う文化
本記事では、主に 1 と 2 に焦点を当てて紹介しました。しかし、3つ目の要素があるからこそ、1 と 2 が成り立っていることもまた重要です。
P&S の研修では、トレーナーはあえて厳しく接します。答えをすぐに教えず、遠回りに思える問いかけを繰り返すかもしれません。しかし、それができるのは、メンバー同士が自然と助け合う環境があるからです。
常にサポートしてくれるトレーナーはもちろん、同期、先輩、後輩関係なく、お互いに助け合うような関係性があります。
この文化があるからこそ、トレーナーは「嫌われ役」に徹し、トレーニーの成長を最優先にした対応ができます。そして、その厳しさを乗り越えたとき、単なるスキル習得ではなく、自信を持って現場に出られる確かな成長を実感できると信じています。
この記事は私が書きました
近藤 恭平
記事一覧研修開発とトレーナーを主に実施しています。 フロントエンド、バックエンド、インフラの知識・スキルを蓄えて、想像を形にしたい人間です。 ここ数年は質の高い学習体験が得られるアプリケーションの開発にトライしています。
